
俺は‘スリックス’という名前のやすいレストランで、コーヒーで汚れた牛革のクッションのついたベンチに座ったところだった。使っていない灰皿の周りには、そこらじゅうにタバコの焼けこげがあった...もしかしたら木の焼ける匂いが好きな奴がいたのか、あるいは、それは彼らにとって何か神聖なものだったのかもしれない。ぼんやりと明かりの灯った店の隅では、奇妙な格好をした常連達が、俺の左側の視界の隅でひそひそ話しをしていた。視界のこの部分は、亡霊が最も姿を現しやすいところなので、俺は2度まばたきをした。3度目は消えていることを祈りながら...。よく見ると、亡霊だと思った奴らは、実際にそこにいただけではなくて、俺の方を見つめていた。「なんにしますう?」そこには燃えるような赤い髪と緑色の目をして、雪のように肌の白い、小生意気で頭の悪そうなウエイトレスが立っていた。「コーヒーをくれ。それとチャウダーひとつ。」と自分が言っているのが聞こえた。俺の空想だったのか彼女が本当に俺にウインクしたのか、彼女は、食事がしっかりと消化された後の匂いを残て去っていった。その匂いはしばらく俺の鼻に残っていた。二度と嗅ぎたくない匂いだった。俺はコートのポケットに手を入れて、永遠のジッポと一緒に葉っぱを一箱取り出した。ジュポッ、青い煙は蜘蛛の巣に覆われていた天井のファンにむかって舞い上がった。あまり深く吸い込まないようにいつも言われてきたが、最初の一服でいつも俺の体の半分が椅子を突き抜けてしまう。体の外に出る体験と言ってもいいくらいだ。
コーヒーとスープを待っている間、俺は誰かが自分の哲学をテーブルに落書きしていることに気がついた。『死ぬほど泣きたくて、死ぬほど死にたい。人生は嘘だって気がついた。俺の女は俺を愛して去っていった。ランジェリーヘッドギアと、ビールの空き缶に詰め込んだ三本のタバコを残して。』んん、この場所にはまさにぴったりだ。俺はランジェリーヘッドギアとはなんのことか分からなかったが、自分で勝手に作り出したシナリオに、自分でもちょっと興味を引かれていた。「コーヒーよ。」と、彼女は脇の下を掻きながら言った。「どうも。」と俺は彼女の真似をして言った。「空中に何かいるのね。」と言って、女はくすっと笑った。「間違いない。」と俺は言って、いつか見た猿のテレビ番組を思い出していた。俺は彼女を近くに感じたように思う。...今がテーブルに書かれた哲学について質問するまたとない機会だと思った。「誰がこれをテーブルに書いたか知っているか。」とそれを指さしながら尋ねた。「あ、あいつ?もちろんよ。私の元の彼氏よ。死んじゃったんだ。」と、彼女は感情のない声で言ったが、それはまるでお祈りのように響いた。もう、何も言うなと俺は心の中で思ったので、ただうなずいた。「チャウダーができたぞ!」とコックがキッチンから叫んだ。「行かなくちゃ。」彼女は体を揺らして去っていった。運がいいことに、彼女がそのスープを俺のところに運んできて、別に何のぎこちなさも残らなかった。俺はドアがガタガタっと開くのを聞いたが、それはウエスタン風のスクリーン扉を思い出させた。そんなに亡霊には見えなくなった奴らがぼそぼそ話すのをやめたので、聞こえてくるのは、ゴキブリのことでぶつぶつ言っているコックの声だけだった。

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